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Doctor Mからのメッセージ#081 (2016.06)
        

いろんな疾患の治療法の進歩は現在進行形です   

        血圧の管理で通院されている60歳台後半の男性が、数年前に歩行が不安定になり、病院の神経内科に通院されています。「原因不明の小脳変性症で、一種類の薬の処方を受けているが、少しずつ調子が悪くなっていて、見込みがない」とのことです。小生は「長生きしているうちに良い治療法が現れますよ」と常に励ましています。

        17年程前に妻の友人の中学生の娘さんが突然「特発性肺高血圧症」という難病を発症しました。学生生活をしながら基幹病院でフォローされていました。そのうちに心不全状態が悪化して基幹病院にフォローしてもらいに行ったところ、「一刻の猶予もない状態」ということで、その日のうちに予め病々連携していた岡山大学に陸路救急車で向かったそうです。唯一の治療法であった肺移植のドナーに父親がなることを決めていたからです。しかし、手術できる状態にまで改善せずに亡くなりました(ヘリ輸送は選択できなかったのか?)。それから1年ほどして、双子の同胞にも同疾患が発症しました。ただ、その短い期間の間に病態管理の特効薬が我が国にも導入されましたので、その方は特別の薬剤投与法を継続することにより、今も生存され仕事をされています。新しい薬剤の出現によって状況が一挙に変わることを経験したものです。

        糖尿病に対する薬剤はこの10年ほどの間に日進月歩的に新しい研究成果に基づく薬剤が数種類発売されてきましたし、最近までに見捨てられていた感のある薬剤の再評価もあり、直接血糖を下げる従来の薬剤(血糖降下剤)の他に現在は4~5種類の内服薬が揃うようになりました。その結果、外来での大部分の糖尿病患者さんのデーターが非常に良くなりました。この数年間に長期的にインスリン注射を使わざるを得なかった5名ほどの患者さんの全員においてインスリンから離脱することが出来ました。現在では血糖降下剤以外の内服薬が中心です。つまり、糖尿病の治療は薬剤としては以前とは革命的に違うようになったと言えると思います。その結果、患者さんによっては生活指導を以前ほどは厳格にしなくても良くなっているのが現状です。

        気管支喘息も30年ほど前までは、専門医にかかっていても「ゼーゼー」からなかなか解放されず、気の毒で危険な状況が多かったと思われます。喘息のような病態にはステロイド剤以外の薬剤は確実で強力に持続改善させることが困難なのですが、呼吸困難の急患として受診した場合に点滴で投与する以外に選択しなかったことがそういう状況をもたらしていました。当時でも、気管支拡張剤の吸入は即時の改善効果が期待できましたが、重症の時は効果が乏しいし、そもそも薬理的には持続効果は期待できませんでした。結局は、ハンドネブライザーのステロイド剤の開発で(その後パウダー吸入もあり)、多くの喘息の管理は非常に楽なものになっています。当院では、毎月の病名の統計で「喘息」は百名ほど来院されていることになっていますが、実際にはそんなに受診しているような印象は全くありません。吸入薬を処方しているだけで大多数の患者さんの状態が落ち着いているからです。(DMM 10. 11

        「肺気腫」という病気は「薬の効かない喘息」と思えば判りやすいと思われます。肺の構造が進行的に壊れていっているからです。予後は地獄的な呼吸不全が待っていました。麻薬の使用が対症的に有効でした。しかし、この20~30年の間に在宅酸素療法の普及で、状況は多少緩和されていると思います。さらに最近は、新しい機序の吸入薬も出ましたし、ステロイド剤の内服や吸入を併用適用することによりさらにもう少しだけ緩和されることが期待できるようになっています。

        心不全に対する治療薬剤のイロハのイは利尿剤ですが、この20年ほどの間に、種々の機序の新旧の降圧剤の併用の匙加減が開業医レベルでも役に立っていると思います。進行癌に対する薬物の開発は現在やっと花開こうとしており、既に一部は恩恵を与えています。日常生活をしながら延命している方々が増えているのを目撃しています。


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