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Doctor Mからのメッセージ#080 (2016.01)
        

化血研のワクチン不正製造問題で私の思うこと   

   現在、化血研の治療用の生物製剤製品の「不正製造問題」がマスコミに報道されています。問題となっている製品は牛や豚などのワクチンなど34種類らしいですが、随分前から承認と異なる方法で製造されていたという。農水省は「安全性には問題がない」としているが、品不足が生じる可能性のある10種類以外を一時的販売停止の行政処分をするということでした(1月19日の報道)。懲罰の意味だけのことですね。

        承認を受けていない方法で製造して販売したという(特に薬品である)違法的なことなので処分の対象になるのは仕方がないようです。経営陣などの責任のある任にあった人たちの責められる点は「バレたら大変なことになるし、今や内部告発が非常に多い世相なので、これは拙い」という認識があったらしいのに、対策を取らなかったことだと思います。従業員や関連企業に対して混乱と迷惑をかけることになりました。

        こういう報道がされるや、必ず、程度の低いマスコミは化血研の製剤を用いて治療している患者にインタビューして「こういう会社の治療薬は心配です。他の会社のものを使って欲しい」というような紋切りタイプの映像を流します。ネットでも「化血研のインフルエンザのワクチンは大丈夫か?」という書き込みが溢れてくる。私なら「処分すると言っている農水省だって、製品自体の安全性を認めているではないか」と答えて仕舞です。国は「必要な製品は出荷を許す(本当は、「出荷お願します」です)」と言っているのです。実際、先日、他の医療介護施設から電話が掛かってきて、電話に出たナースが「アステラス製薬のインフルエンザワクチンがあったら分けてほしいとのことです」でした。「当院は化血研のワクチンでも何ら問題がないと確信しているので、分けてあげます」とお答えしておくように言いました。

        長年に亘って状況を把握していた化血研も対応に揺れていたと思われますが、国の方もうすうす判っていたかも知れないが対応に揺れていた可能性があると私は疑っています(告発があれば当局は動かざるを得ない)。というのは、化血研は長らく国の衛生政策におけるこの方面の役割を果たしている企業であり、その力量の高いことは関係者なら判ることだからです。本当なら、今回のような内部告発でなく、ソフトランディングできたらよかったと思います。

        すなわち、30年前などに承認を通した製造方法には、その後経過とともに問題点が判ってきて、もっと良いと思われる製造方法に変更してきたのだと思われます。承認を受ける立場の化血研の方が承認を与える国よりも製造自体のノウハウをよく判っているという構図であることが「事がそんない単純でないのだぞ」ということになるのだと思います。ここで問題なのが、国の承認には他国と比べて信じられないほどの手間と時間を要します(これには国や国民が是正すべき2つの原因があると私は思っています)。だから、この時点で、製造が結構長い期間ストップせざるを得なくなり、それは結局、化血研や関連企業の経営にダメージを与え、かつ、衛生行政の遅滞を招くということで、化血研も行政も困ったものであったのではないかと思います。「再承認を得るまでの期間は以前の製造方法ですることで仕方がないと判断すべきだったではないか」と想像するのですが、現実的に大きい壁があったのかも知れないとも、カリスマ的な強権を持つ指導者がいたら対応できたかも知れないとも想像しています。

        化血研は古く熊本大学が設立に関わった時代の先駆けのベンチャー企業だったと記憶しています。当院の直ぐ近くにあり、以前ここの職員M氏の受診がありました。診断に難渋した大量の胸水貯留でしたが、良い転帰で終わりました。これ以後、呼吸器疾患の受診が時々あります。また、貴重な試薬を分与して頂いたこともあり個人的に身近に思っています。そういうことで、今回のことは残念に思います。


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