Doctor Mからのメッセージ#082 (2016.06) 薬剤費をはじめとする医療費の高騰で日本の医療は維持できない
◎ 我が国では「薬を飲む」ということを否定的な方々が多いように思います。その一方で、「健康食品」の類いを過度に期待する風潮があります。これは「不健康な考え」だと思います。内科的な疾患に対する最も有効な手段が結局は「薬剤」です。こういう認識に基づいて、このコラムでも何度も薬剤による恩恵について書いてきました。しかし、「良いものなら費用がいくらかかってもでも良い」というのは、どの領域においても持続可能な方策ではありません。
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慢性腎不全に対する人工透析療法、難病に対する高額な薬剤などを含む治療法、臓器移植治療など生命の存続か否かに直結するような領域について、費用が高すぎるからどうのこうのと言及することは慎重にならざるを得ないのですが、それでも日本の国民皆保険制度がこのままでは維持できなくなってしまうのでは元も子もなくなります。今後の医学の方向は、「持続可能な費用で行えるような優秀な薬剤や治療法の開発研究」という費用と効果の両面という哲学で行わなくてはならないと思います。今後もしiPS細胞による治療が発展する場合でも、パイロット的な治療の試みについては「いくら費用が掛かっても試みる」というのはあり得る話であると思いますが、これがもし成功すると、一部の人たちが(主にマスコミを通じて)直ぐに保険適用を求めてくるのが問題であると思います。
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しかし、実はもっと身近な治療領域の中で、専門学会や厚労省の考えが甘いから(医療費節減という観点から)、医療費が浪費されているように感じています。一例として、抗凝固剤のワーファリンという治療薬があります(DMM 6. 75)。最近では特に、心房細動という不整脈が脳梗塞の重要な危険因子であるために、その予防目的で投与することが常識的になっています。納豆やクロレラの摂取は禁止されることと、定期的に(毎月など)服用量のチェックに採血検査を行う必要があります。数年前から異なった機序の同類の薬剤が数種類出現していますが、上記のような禁止食品もなく、定期的な採血検査も不要で面倒くさくないというものです。ただ、検査不要というのはワーファリンの場合ように良い判断指標がないということで、不都合でもあるのです。しかし、とにかく便利だと思います。実は、私も必要があって超短期的に服用したことがあります。ところで、ワーファリンは1錠9.6円です。これをもし平均1日3錠が適量の方は月額864円ですが、新しい薬剤であれば純薬剤費だけで月額約1万円です。10倍以上も高騰します。この数年、専門医がどんどんこれに切り替えてきていますので、病診連携している診療所もなし崩し的に切り替えざるを得ない状況です。既に長年ワーファリンに慣れている患者さんはそのままそれを使ってもらう方針でおります。一年程前、そのうちの一人の方が新しい薬の情報を聞いて、「切り替えて欲しい」とのご希望がありました。「今までのワーファリンの方が良いと思います」と説得しているうちに電話があり、「年も取ったし、近くの医院に変わるので紹介状を書いて欲しい」ということで、その患者さんを失いました。便利か便利でないか程度で10倍も高い薬に平気で変更するようでは医療費削減も絵に描いた餅です。厚労省はつまらない方策(ここでは具体的に述べません)で現場の医師の疲弊を招くのではなくて、本筋で医療費削減を実行しなければならないと思います。
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また、効果があいまいな薬をだらだら用いることによって医師・患者双方にいい加減な精神を育んでいると思います。多くのビタミン剤や多くの漢方薬などがその筆頭のように思われます。去痰剤でさえどれ程効果があるか不明です。最近の話では、「咳喘息」のような性格の咳には通常の咳止めはほとんど効果がないように思われます。
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