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Doctor Mからのメッセージ#064                     (2006.11)
          甲状腺ホルモン剤について面白い?お話

 甲状腺ホルモン(TH)は前頚部下部にある甲状腺から分泌される、新陳代謝を刺激するホルモンです。THが多過ぎるといつも運動しているような状態となるので(交感神経刺激状態)、脈拍が多くなり、体温も上昇し、体重が減ってきます。THが減るとその逆(副交感神経刺激状態)になり、体重も増え浮腫んできます。

 
甲状腺機能異常には、甲状腺中毒症と甲状腺機能低下症があります。甲状腺中毒症は血中のTH(FT3)高値の状態です。この状態の代表が甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)です。バセドウ病の治療は本邦では大抵は抗甲状腺剤内服という薬物療法の選択がなされますが、状況によってはアイソトープ療法や手術療法があります。薬物療法には治療開始後の副作用のチェックや薬剤の減量のスピードなどに若干の経験が必要です。上手くいかなければ後の二つの療法がありますので、困りきってしまうことはありません。診断については、TSH低値・FT3高値というデーターが揃えば甲状腺中毒症です。これにTSHレセプター抗体の陽性という所見が加わればバセドウ病の確定診断になります。TSHレセプター抗体が陰性の甲状腺中毒症は複数の病態が含まれ、私は苦手なので甲状腺専門医に紹介することにしています。その他、腫瘍の可能性があれば甲状腺専門医に紹介します。TSHというのは甲状腺刺激ホルモンといって脳下垂体から分泌されるものです。

 
一方、甲状腺機能低下状態の中で慢性のものは橋本病(慢性甲状腺炎)によるものや、甲状腺摘出後の状態があります。この場合はTSH高値・FT3低値のパターンになります。この甲状腺機能低下症の治療に用いるのが甲状腺ホルモン剤(TH剤)です。この薬は一応副作用の心配のない薬で、要するにHTが不足しているから補充しているだけなのであります。毎日数錠程度(個人差あり)の錠剤を服用していれば一生普通なのです。私は患者さんに「薬と思わないでご飯と思ったら気が楽です。ご飯だって毎日食べないといけないのと同じ程度のことです」と、全く心配のないことを説明しています。

 
ところで、一応は甲状腺疾患がない人について考えてみますと、FT3値が基準値の中に入っていても、やや低目の場合とやや高目の場合があります。通常は薬物投与の必要はないとされていると思われます。これに関して互いに反対のような二つの考え方を書いておきます。第一に、やや低値正常と思われる方に他院で少量のTH剤が処方されているのを時々みることがありました。そのことだけで通院されているような感じのケースがあります。それなりの考えがあり、患者さんがよく微妙な考えを理解されていたら良いのかも知れないが、実際はどうなんだろうと疑問を感じています。第二に、低値正常の人は病気とまではいかない程度の上記の自律神経機能の振れがそれと判る程度にあるのかも知れない。ご本人の生活状況をつぶさに参考にしたら、自律神経障害に対してご希望に応じて少量のTH剤を投与することは合理的のような気もする。

 
この話を進めると、肥満で治療効果が出ない人の悪循環脱却に、医師の注意深い管理の下で少量のTH剤を投与するのはあり得る話と思いました。このことは#15に書いています。もちろん、医療保険はパスしない使用法です。この考えに類した交感神経刺激剤などの投与オプションは専門家の書物に記載されていますが、TH剤の投与は記載されていませんでした。小生はあってもよさそうだと思います。ただし、TH剤の投与のみならず他の交感神経刺激剤の投与は、肥満による余程の不都合がない限りは安易に勧めるものではありませんし、それを処方できるのはその筋の専門医であるべきでしょう。

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