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Doctor Mからのメッセージ#032                     (2003.11)
              末期患者への安楽死事件の問題


 安楽死については、それを認めている国もありますし、いろんな場合があるので難しいです。ただ、癌の末期患者に対する安楽死は考え方としても間違っていると思います。そんな無茶をしなくても、ちゃんとした緩和治療ができると思うのです。とにかく、今の日本では安楽死は犯罪(殺人罪)ということです。尊厳死とは違います。

 以前からよくあるのが、苦しんでいる患者を身内の者が見かねて殺してしまう事例です。本人が「早く死なせて欲しい」と訴える場合も多く、その場合は「嘱託殺人」ということになります。しばしば情状酌量の判断がなされることもまた当然の事態でしょうが、あくまでも犯罪であります。思いつめる前に、誰かに相談すべきでしょう。

 最近、次第に事例が出てきたのが、医師による医療の現場での安楽死です。有名な東海大学事件があります。癌の末期の男性患者に、担当の研修医が塩化カリウムの静注をして心臓死させてしまった事件です。結局、この医師は殺人罪で起訴されてしまって、医師免許も剥奪されています。まあ、立場と行為を考えれば止むを得ないような気がします。私は、しかし、彼を充分に指導なりサポートなりしなかった上司の責任の方により問題ありと思います。ターミナルケアの現場を経験の少ない医師に丸投げをしていたのではないかと疑います。もっと言えば、わが国の医師養成の精神自体に問題が潜んでいるように思います。そういう意味ではこの若い医師も気の毒だという気がすることを禁じえないのが小生の正直な気持ちです。さらに、私はこの時点で未熟であった医師がパニック的な行動をとるまでの経緯に興味を持ちます。記録によると患者の息子が「もう早く家に返してくれ」とかなり強く求めています。この事態で早く返してくれというのは「早く死なせてくれ」ということで、そもそも無茶な要求ではないか。「苦しまないようにさせてくれ」なら妥当な要求であるけれども。この点については一体どう扱われているのか、非常に気になったのですが、サボッて確認していません。この時の病室のリアルな雰囲気や経過を再現出来ない以上、永遠の謎が残りますが。息子がそういう無茶なことを言わなければ、若い医師の人生をあれ程まで変えてしまわなかったと思います。彼の方から情状酌量の話があってもおかしくはないのではないかと思います。そうしたのでしょうか? また一方、息子がそういう要求をしたくなる程に緩和対策についての対応や説明・協議が不充分だったのか?

 その後、京北病院の院長が患者の安楽死を計画的に行ったとの確信犯的な安楽死事件がありました。この先生は同大学出身ですので、私の方は学生時代からお顔を存じています。このケースでは麻酔に用いる筋弛緩剤を静注して呼吸を止めています。癌のターミナルでなく、植物状態のような疾患であったと思います。医師がある種の問題意識を持っていたからの行為です。法に触れますし、倫理的にも悩ましい。

 立場柄、私も数多くの癌や進行性の慢性呼吸不全のターミナル状態の主治医をさせて頂いてきました。麻薬、ペインクリニック処置、精神安定剤、ステロイドなどで緩和ケアの管理をすることが可能であると思います。ご本人の苦痛が軽減して、付き添いの家族の方の納得を得ることがそれなりに出来たと思います。物凄く苦しむ方には麻薬などの量が増えて、それが結果的に死期を早める可能性については、安楽死とは違い、許されることであるというのが大方のコンセンサスと思われます。

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