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Doctor Mからのメッセージ#031                     (2003.11)
             内視鏡手術の増加が果たす医療経済への影響

 先日のワイドショーは内視鏡手術の問題点についての特番になっていました。その番組で言っていましたが、盲腸(虫垂炎)の手術料は64200円で、それを腹腔鏡で行うと180000円ということで、3倍になります。こうすると、如何にも病院側が診療報酬の点からも内視鏡手術をしたがると一般人は思いがちです。しかし、実は内視鏡手術にはコストも高くなるし、入院期間が少なくなることを考えると、個々1件としては、総入院費は数割安になります。利益としても良くないように思います。

 内視鏡手術の医療内容の問題点については,前号までに述べました。経済的因子としては入院期間の短縮が重要でしょう。入院期間の短縮で必ず恩恵があるのは、保険支払い基金と生命保険会社です。入院期間が減るとこれらからの出費が減るのです。患者側には恩恵がありうるが、そうでない場合もある。患者側にとっては、例えば、「今度の病気まで働きづめで、生命保険にも掛け金ばかり払っていたから、今度の手術では体調が良くなるまで、多少余裕を持って入院していたい」という考えは許されないので、結構まだ痛いとか体調が悪い時点でも退院を決められてしまう(そういう時には途中から診療所に転入院して下さい)。その理由は、病院が入院期間を減らざるを得ないように、厚労省が次項に述べるような形で、医療報酬方式をいじくったからです。

 病院管理側としては、今も昔も変わらずに一番大事なことは、入院ベッドの空きを作らないことです。特に現在、病院は入院治療に診療点数の重みを付けられているので、入院で稼ぐようになっています(診療所はその逆の点数の重みになっています。同じような治療内容でも、診療所入院ではしばしば半分以下の費用で済みます)。ところが最近、平均入院日数が多いと、同じ治療をしても病院全体の支払い点数の減額になるという制度が出来ました。これは病院経営の死活問題です。だから死に物狂いで早く退院させないといけないのです。そこで病院管理者にとっても内視鏡手術のメリットがあるという訳なのです。管理者と患者の間に立つ主治医は忙しくなり、また書類や報告書の質や量が増えて、以前よりも大変だろうと同情しています。

 日本の医療制度には確かに多くの問題点があり、日本医師会、政府、マスコミは地に足の着いた改革を模索しないといけないと思います。個々の医師、国民の精神改革も然りでしょう。しかし、今までの日本の国民皆保険制度については世界最高であるというWHOの判定をもらっているらしい。マスコミもそういうことはきっちり言わないといけない。マスコミは医療面でもわが国の悪口ばかりで、米国のような問題ありの制度をしばしば良い面だけを取り上げる傾向があり、国民をミスリードしているように思われます。米国留学をした経験がありますが、在米日系人の間では常識があって、「盲腸の手術が必要なら日本に行く」というものです。当時の飛行機代を支払っても、米国で手術するよりもうんと安いからです。それ程アメリカの医療機関への支払いは高いのです。また、米国では公的な国民皆保険ではないので、金持ちと貧乏とでは医療の質の差が大なのです。しかも支払い側の保険会社が患者に「貴方はこの病院に行くこと」など指示し、病院にも「こういう治療をせよ」という要求をするので、それなりの意義もあるでしょうが、資本主義の悪い面がモロに出ています。経済第一の医療です。日本に株式会社の参入は不適切という点に限れば、私も日本医師会と同じ考えです。現在既存の大企業傘下の病院は軒並み赤字で、企業の本業の余力で成立しているはずです。黒字にしようとすると米国みたいなことになってしまうのです。

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