Doctor Mからのメッセージ#095 (2016.07) 公的費用をあまり掛けない検診システムの私案
◎主に、胸部検診について考えたいと思います。我が国の現在の胸部検診の実質的な主目的は「肺癌」の発見であります。立場により結核検診などと言うかも知れませんし、確かに肺癌以外の疾患が発見されて役立つこともありますが、それは副次的なものです。無症状の方が検診対象であるべきでしょう。国民個人に任せておくと自己検診など実際には受けない人が多いので、この検診をPRすることによって受検率を増やすようにしています。これは親切な話であるのですが、国の財政の状況と無関係の話でもありません。 ◎ところで、会社に勤務している人は、毎年胸部写真をすることが法律で決められています。内科関連で医療機関に通院している人も1年に1回は胸部写真を撮るようにすべきだと思います。これ以外の胸部写真を撮る機会のない自営業・主婦・無職の人々だけについて考えれば、公的出費を削減できます。さらに、実施につては、生活圏にある病院や医院において1年に1回受検すればよいと思います。受検したこととその判定と指示という簡単な検診票(医療機関に置いておく)のデーターを役所に郵送すれば、それで1次検診が終わりということです。職場健診や通院で胸部写真を撮った人については、必要なら1年に1回は当該書類に記載して提出してもよいのです。現在のような、肺癌検診システムの多くは不要だし、そもそも高額な検診車(寄付が多いらしいが)などは不要になり、国庫出費は非常に削減されるでしょう。この案についての想定反論~疑義について考えてみました。 ◎そのように簡単に言うけれども、実際は難しいのではないか?➜こういうシステムは既に運用されています。多くの予防接種(インフルエンザや肺炎球菌など)は、「医療」ではない「公衆衛生」のジャンルですが、最寄りの医療機関が請け負っています。受接種票に記入して、接種を受けて、その結果用紙は役所に送っておいて済むのです。これに係わる新たな建物や職員は特に投資することもなく、いつもの事務員、ナース、医師で済ませております。検診も同じことができるはずです。実は、成人病の予防について、現行の「特定健診」の導入前は「基本健康診査」という全く同じジャンルの健診がありました。この制度はこういう最寄りの医療機関を利用するという「経済的な」システムだったのです。ところがこれは市町村が実施の主体でありまして、世間が不景気になってきて、貧乏な市町村が予算投入を続けられなくなったのです。不景気になったから市町村の財政が持たなくなったからなのに、それを引き受けた国が「特定健診」のシステムを作りました。この健診も実施場所は従前と同じ医療機関なので適切だと思いますが、事後のデーター処理と生活指導を医療機関から切り離して行っているために、これについての人的および非人的費用に公的負担が追加されることになっています。国の財政状況が問題となっているのであるから、従前の「そこそこ」の程度の遣り方で充分であったと思います。 ◎肺癌検診での写真の読影は特別の研修や経験のある医師でないと「見逃し」が増えるのではないか?➜現状では、1次検診機関はそれに関する専門科の医師が携わっています。しかし、1次検診は自分で「それなりに自信がある」と「挙手」する医師を認めて実施したら良いと思います。実は、日本における診療科の標榜は医師の自分の判断による「挙手」なのです。現行システムでも1次検診で「少しでも」怪しいと思ったら2次検査機関に紹介するのであるので同じことであります。そもそも、職場健診や人間ドックで受ける胸部写真にその読影に専門の医師が関与していない場合がかなりあると思います。現実にはそういう「そこそこの読影」で可であることになっているのです。一般診療の場でも胸部写真は相当数撮影されていますが、多くは「そこそこ」なのだと思います。私もそれで容認されるものと思います。何故なら、費用や人材の負担を考えると、「そこそこ」が現実的だと思うからです。 ◎費用も考えずにいつも「最高水準」を求めるのは、我が国の贅沢体質だと思います。しかも、「見逃し」「誤診」はレベルの高い医師であっても確率的には生じるものなのです。
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