Doctor Mからのメッセージ#092 (2016.07) 副腎皮質ステロイド(経口・注射)によるリスク ◎正しいバランスを取るために、今回は副腎皮質ステロイド(副ス)のリスクについて書いておきます。私は、「気管支喘息」における急性増悪は当然のこと、現在は遷延性の「咳喘息」にもしばしば1~2週間までの経口の「副ス」を処方しています。この実際のことについては他号において書いております。ある薬品の処方頻度が増えると副作用の頻度が増えるのは確率的には仕方がないことでもありますが、許容を超えるような不都合な結果や、そもそも根拠の乏しい処方は避けなければならないと思っています。
◎「副ス」の副作用でよく言われているものについては、①感染抵抗性が減弱する、②胃潰瘍のリスクがある、③糖尿病が悪化する、などのでしょうか。実際はどうかと言いますと、①は症例報告や総説などの論文において数多くの記載がありますので無視できないものです。ただ、適用や用量に気を付けて投与すれば良いのではないかと思われます。原疾患における「副ス」の必要性の大小によって、その適用の拡大や縮小が判断されるものでしょう。②は相反するいろんな意見があるようですが、通常は普通の胃薬を併用する程度の対応だと思います。③は予め念頭に入れておれば良くて、対応は出来るということです。むしろ、長期投与の場合に(過敏性や自己免疫性の慢性炎症など)、「骨粗鬆症」のリスクについては(最近の骨粗鬆症対応の薬剤を併用していても)、回避が出来ているとの自信はありません。
◎もともと免疫力低下のある方は、別の話であると思われます。特に、白血病のような場合は、有効な抗癌剤と「副ス」とが好んで用いられます。ともに有効であるといっても、いずれも免疫抑制を来す薬品です。こういう場合でもこの2者の薬剤は用いられるのです。原疾患の治療に不可欠だからです。それで、状況によっては無菌室に収容するような対応がされることがあります。一方、膠原病の治療でいくら高用量の「副ス」を使用するといっても、無菌室に収容されるような事態は滅多にないのではないかと思います。
◎「副ス」はもともと体内から作られる副腎皮質ホルモン(副ホ)の同類作用の物質なのです。この薬をある程度の期間続けていると、体がホルモンの分泌をさぼってしまいます。「副ス」は「ストレス学説」において、アドレナリンと並ぶストレス対応の重要なホルモンなのです。この状況でこの薬を急に止めると副腎皮質不全状態に陥り、ひどい場合にはショック(虚脱)のような状況になる可能性があるのでしょう。
◎以上のような観点から、「薬剤情報提供書」に「この薬は急に止めないように」としばしば書かれてありますが、こういうのを「単に書き投げておくこと」はよろしくないと思います。ある程度の投与量とある程度の服用期間の場合にのみの話なので、こういう大事な話は個々で医師がご本人とともに留意しておくようなことだと思います。実は、もう一つの「急に止めない方が良い」という場合があります。それは比較的短期間の中用量以下の投与の場合でも、急に止めたりすると、当該疾患の病状が「リバウンド」的に「ぶり返す」ことがあるからです。私たちの扱うケースでは、アレルギー性の肺炎や重症喘息の治療の場合に問題です。「減薬が早過ぎた」ので「もう一回投与量を増やす」ということは時々あります。
◎「副ス」の少量短期間投与の場合は「普通の薬」であると考えるべきだと思います。ただ、もともと副腎皮質不全症という疾患の人においては「少量短期間」の投与でも急の終了は何らかの不都合がでないとも限りませんが(小生にはあまり判りません)、そもそもこういう稀な特別な方は専門医によって完全に管理されているものでしょう。
◎また、膠原病で長期的な「副ス」を用いている人が妊娠したらどうしたら良いか。端的に言いますと、原疾患の状態を安定させたままで、希望されている妊娠と分娩を産科の管理下で続けることが良いことなのです。つまり「副ス」を続けながら(多少減薬はするかも知れない)ということです。産婦人科専門医の書いたものによりますと、詳細は別にしてプレドニン(5mg)換算2~3錠なら妊娠初期から服薬が続いていても特に心配ないということです。
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