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Doctor Mからのメッセージ#091 (2016.07)
        

副腎皮質ステロイド(経口・注射)に対して正当な評価をしましょう

◎副腎皮質ステロイド(副ス)は効能も多岐にわたっていますが起こり得る副作用も数多く書かれています。この状況で一般の医師はなかなか使おうとしません(使わない方が立場上無難です)。素人の方までが「この薬は副作用が心配な薬だ」という情報だけ知っている場合が多い。しかし、この薬を普通にかつ適切に使えば大きい恩恵を与えることができるという情報は行き渡らないようです。

◎この薬剤は基本的に強力な「抗炎症作用」があるのです。多くの膠原病の治療には欠かせないものです。臓器移植にも「副ス」は併用薬として現在も重要です。「副ス」は極めて長い歴史と経験が共有されています。個々の場合において留意すべき副作用を念頭に入れておけば、充分だと思います。恩恵は絶大だが副作用は非常に少ないというべきでしょう。

◎大学の胸部外科勤務時代の話です。重症筋無力症という難病で神経内科の薬剤(「副ス)による管理では困難な症例に対して胸腺摘出術を依頼されていました。小生は胸腺疾患の担当者であったので、手術の執刀と術後管理を研修医と一緒に任されることが多かったのです。術後に呼吸状態が必ず悪化かつ変動するので管理は高度の専門的対応が必要でした。大量の「副ス」(例えば、プレドニンの隔日16錠➜術後は連日8錠)を続行しながらの呼吸管理を行いました。こういうストレスのタイミングでは長期大量の「副ス」の減量は特に危険なので減量しません。つまり、「副ス」大量投与中であっても手術は安全にできるのです。

◎「副ス」を投与するかどうか非常に迷った場合は、重症~劇症肺炎です。これは何度も遭遇しましたが、肺炎であるから「副ス」を用いると免疫抵抗力が損なわれて逆効果になりはしないかという(論理的には真っ当な)判断ですが、大抵は「投与時期を失ってしまった」という後悔とともに患者さんを失うことが少なくありません。「副ス」はつべこべ言わずに「炎症反応を抑え込もう」と言いう薬なのです。現在の重症~劇症肺炎の治療のガイドラインには「有効な抗生剤を使用しながら」「副ス」を用いることが推奨されています。しかし、なかなか心理的に使いにくいのです。もし使用した「にもかかわらず」肺炎が悪化し場合に「副ス」を用いた「から」命を失ったのではないかと指摘される場合を考えると躊躇しかねないのです。過敏性肺炎などと診断したものに対しては当然のこととして「副ス」を用います。

◎開業してからは、急性扁桃炎で近くの耳鼻科の先生からの紹介が何度もありました。「炎症がひどいから、抗生物質に併用して「副ス」の投与をお願いします」ということでした。小生はこの先生とは同じ考えで診療できると思っていました。

◎気管支喘息の急性増悪の場合は迷うことなく「副ス」を用いる必要がありますが、「細菌の感染によって喘息が悪化したのではないか」と思えばどうなるか? それでも「副ス」は用いるのです。劇症肺炎の場合と同じく、こういう場合に「副ス」を忌避するのは、火事の最中に「将来に重要な書類が濡れるから放水を止めてくれ」というのと似たようなものです。しかも、実際には免疫低下による不都合は(ないとは言えないが)、あまり遭遇しないのです。

◎大学の後輩医師が、重症化したマイコプラズマ肺炎に抗生剤と「副ス」の併用が適切であるという数編の論文を30年前に出しています。その考察では「そもそも重症化の原因をマイコプラズマに対する過敏な炎症反応に想定しています」。傾聴に値するように思います。実は、多くのウィルス感染による病状もこういう機序が重要だとは言われています。

◎普通の風邪症候群は「ウイルスによる」と一般に言われています。しかし、口腔の常在菌のようなウイルスが本当の原因ではなくて、むしろ、物理的環境・疲労などが引き金になって局所粘膜の変調や局所の自律神経の変調が引き金ではないかと私は以前から思っています。皮膚や粘膜では成長とともに常在ウイルスや細菌に免疫学的寛容が生じて共存するようになっているようです。インフルエンザウィルスとかノロウィルスとかの明らかな感染性のものと風邪症候群は混同してはいけないと思います。風邪でさえも強烈な場合は「副ス」の使用はあり得ると思いますが、自分以外には適用はしていません。


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