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Doctor Mからのメッセージ#086 (2016.06)
        

我が国の医療費の高騰の原因の一つは安易に検査をし過ぎること

医療費のことを考えると、「医師を増やすと医療費が増える」とか、「検査機器を増やすと医療費が増える」というのがマクロ的に正解です。そのことを医療の便利さと費用の高騰とのバランスからどう考えるかの、突き詰めれば哲学の問題になると思います。外国(ここでは、「先進国の多く」という意味)で、当院のような一般診療所にCT機器がパラパラあるのは日本だけと思います(恥ずかしい)。何度か一緒に仕事をした熊本大学出身のU先生はパリ大学で数年研修をした、実際に臨床的に非常に優秀な神経内科医です。20年ほど前の彼女の話では、パリでは例えばMRI機器のような高度なものは1カ所のセンター的な施設にしかないそうです。CT機器もある程度大きい病院にしかないということでした。

 ◎やはり20年ほど前にオランダのAさんから聞いた話。彼女は大学院での日本の農業の研究のために数週間の予定で玉名郡の方に滞在したところでした。病気になり当院に受診されましたが、急性肺炎でした。Aさんの希望(入院は嫌)により、銀座通りのホテルを紹介して毎日抗生剤の点滴に通院して順調に経過しました。帰国前に来日した夫と小生夫婦を夕食に招待してくれました。夫は国際金融の仕事をしていました。その時に、両国の医療の現状について雑談しました。Aさんは日本の医療は非常に素晴らしいと思うと言ってくれました。特に印象深かったのは「オランダでは肺炎でも2週間に1回くらいしか胸部写真の検査はできないだろう」とのことです。検査自体は治療ではないので、オランダ的な検査頻度でも大概は良いのでしょう。小生については、最初の数日は毎日検査をします。経過が順調だったら検査期間を長くしていきます。悪化を見逃すのが手遅れになるリスクを避けているのです。オランダの話は多くの西欧での状況で、日本だけが多分違うのであろうと思います。

 ◎両者の違いは国民の「考え」の差であると思います。患者の利益のために診断の精度を限りなく上げたい(費用は出来高支払で天井なしもあり)なら日本型であるし、国家財政的に身の丈に合った検査メニューなら仕方がないというのが外国型であるように思います。Aさんの発言もオランダの制度への不満ではなかったと思います。

 ◎小生が患者を病院に紹介させてもらうと、たとえ最近の当院からの検査結果を提出していても、それに構わず決まったような多くの検査項目をされます。一般の採血検査も必ずフル項目でされてきます。これじゃあ、医療費が高騰するのは当たり前だと思います。「抜けのないチェック」をしようという意味は分かりますが、出来高支払い医療制度の「なれの果て」的な様相でしょう。異常のある可能性の非常に少ない項目もどんどんこなすというのは今後考えを変える必要があると思います。「成人病T細胞性白血病」で世界的に高名な熊本大学名誉教授の高月清先生は「アミラーゼ産生骨髄腫」の症例についての最初の発表者だそうです。当時は「血液系の腫瘍が消化酵素を産生する」という多少のインパクトがあったのでしょう。高月先生の口から直接聞いた話では、この話を外国で講演すると必ず受ける質問が、「骨髄腫の患者に何故血清アミラーゼの測定をする必要を認めたのか?」ということです。日本では、とにかく普通の検査項目は全部しておこうとなるのですが、外国では直接関係のない項目は「無料ではないのだから自動的には行わない」ということです。「日本だからこういうのが見つかりやすいんですねエ」と笑っておられました。

 ◎小生は各国の医療制度の詳細については多くを知っていません。それでも言いたいことがあります。米国は「特殊国家」ですから、直接には日本の参考にしない方が良いと思います。歴史も日本と匹敵する欧州が参考になると思います。ただ、人口が少ない国ばかりです。政治・経済や医療などでは「スケール効果」というのが大きいので、欧州で成立できるような医療制度が1億人以上の日本には成立が難しいことがあります。日本の諸制度の改革には単なる模倣は良くないと思います。先ず、「義務と権利」「自由と平等」についての理解と覚悟をし直すことが肝要だと思います。結局は、教育とマスコミの問題でしょう。

 


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