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Doctor Mからのメッセージ#052                      (2005.5)
       採血や静脈注射が痛いのは下手なのかどうか(ナースが読むように)

 私も若い頃は、病棟の採血当番や点滴当番の義務がありましたが、開業してからは大抵はナースに任せているので、特に細い静脈に注射するのは正直言ってナースの方が格段上手です。静脈注射は上手く血管に針が入らない時や、痛いのが強い時は「下手糞」とのラベルが付けられるので、注射する側も緊張する場面です。静脈注射で痛い場合は、皮膚を貫くところが痛い、静脈を貫くところが痛い、注入する薬液が痛い、の場合があると思います。時には、皮下の神経にたまたま当たる場合もあるでしょう。

 皮膚の痛みの場合は皮膚に点在している痛点に当たると痛いのです。痛点は目で見えないので当たるか当たらぬかは刺してみないと判らないので運不運が絡んでいます。痛点に当たらないと全然痛くないのです。臀部は痛点の分布が疎らなので、全然痛くないことがしばしばです(この場合は皮下や筋肉注射)。しかし、手指はその分布が密であり、大抵は痛点に当たってしまうので痛い。肘の場合はその中間の密度でしょう。痛くない確率を上げるには、痛点に当たる確率を減らせば好いのです。その方法は、空いている方の指で皮膚を引き伸ばしてやることです。それと刺入する瞬間に針を皮膚になるだけ直角に近い角度にすることです。また、皮膚を刺入する時にスパっとすると痛くないのにゆっくり刺すと痛いことがあります。ピアスの穴開けは太い針をピストルのような器具で打ち込みますが、猛スピードで打ち込むのでほとんど痛くないのです。この逆、つまり、皮膚を弛んだまま、針を皮膚の面に平行に近い角度でムジュムジュとゆっくり刺入すると、複数の痛点にジワーっと直撃する可能性が高いと思われます。こういう具合に、遣り方によっては差が出るので、「あのナースがすると痛いことが多い」という場合が本当なら、運だけではないと思います。一方で、本当に針を皮膚に直角に刺すのは不都合があるし、速すぎる刺入も危なっかしいし、皮膚を引き伸ばしすぎると静脈の流れが阻害されて見えにくく入りにくくなります。実際の具合は経験が物を言うと思いますが、何事も数をこなせば好いと言うのでなく、考えを持ちながら数をこなさないと下手のままということになろうかと思います。

 
静脈に針が入ってから注射液を注入する際に、耐え難い痛みを覚える場合があります。薬液によって、全然痛くない、多少痛い可能性がある、激痛がある、に分かれます。激痛の液はもちろん点滴でゆっくり注入する場合のみ使用されます。こういう薬剤の代表はカリウム製剤と抗生剤のミノマイシン(PHが酸性)です。これらの薬剤は希釈してゆっくり点滴しないといけないのです。しかし、数時間かけて入れても痛い場合があります。さて、多少痛い可能性のある薬液でも(例えば鎮痛剤の注射など)、同じ人に対しても痛くない時と我慢できない程痛い時とがあります。ゆっくり注入したり、予め薬液を希釈しておくと痛みが少ないはずでが、受ける側の状況に痛みが左右されることもあるのです。注入される静脈の流量が多い場合は薬液が薄まるので痛みは少ないが、流量の少ない細い静脈なら同じ速度で注入しても痛みが強いことになります。だから、なるだけ太い静脈を選ぶほうが痛みは少ないと思われます。同じ人の同じ静脈でも、体調によって、静脈が怒張している時と凹んでいる時があり、日によって痛みが異なる場合があり得ます。また、注入している時に、その末梢を指などで圧迫しておれば静脈の流量が減るので痛みが強い結果になるかも知れません。ということで、「痛みは運もあるが、遣り方もある」でしょう。最後に、薬液に対する痛みの感受性にも個人差や局所差があって、受ける側によりけりという因子もあります。痛い場合は強行せずに一旦止めにして、し直すか今日は止めにするかを検討します。

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