(009) コエンザイムQ10について入手した情報とその感想(2005.04)


  
どこかで聞いたことがある「コエンザイムQ10」が、最近は健康食品やサプリメント業界で人気が急上昇して、一般の関心を引いているようです。旅行中に飛行機内で読んだ産経新聞(昨年1128日)に「コQ」についての記事があった。それによると、「今年9月にテレビで取り上げられたことでサプリメント関連業界でブームに火が付き、101日には厚労省から化粧品への使用が認可されてさらに商品の増加となった」。ところで、「化粧品への使用が認可された」ということは、厚労省がなんらかの効果を認めたということではありません。そんなチェックなど直ぐに出来るはずはありません。端的に言えば「化粧品に混ぜても毒ではない」という程度のことです。もっと普通に言えば「不都合はない」という程のことでしょう。現代では国が民業の商売を妨げるような過度になりかねない規制はそう簡単に出来ないのです。このテレビというのは「みのもんた」の番組か、それに似たようなバラエティ番組であると推測できます。テレビでこういうのを取り上げると、翌日から噂が駆け巡り、健康・サプリメントの業界や化粧品業界などは「待ってました」とばかりにそれに飛びついて、少なくとも短期利益を得て、数年後にはブームが冷えてしまい、また、別のブームをテレビが引き起こすのであります。本当に良いものなら長く需要が続くと思いますがねえ。


  
大塚製薬から毎月送られてくる「大塚薬報」(昨年11月号)の「ビタミン・テキスト」というシリーズものに、この「コQ」の解説がありました。タイミングを合わせたのでしょうか。米国の解説書の訳らしい。話のネタに書きますが、「細胞のミトコンドリアの電子伝導系に介在して、酸化還元に補酵素(コエンザイムは補酵素の和訳、エンザイムは酵素です)として働き、抗酸化作用がある」とのことです。キノン(Quinone)という構造に10個の側鎖が付いているので、そういう名前になっている。「コQ」は1957年にCraneが発見して、この物質の機能の研究によって1978年にMitchellがノーベル化学賞を獲得しているので、学問的にはそれなりのものであるようです。「コQ」は人体ではコレステロールの合成経路を経て生合成されるが、食物からも摂取されている。この解説書によると、「コQ」はいろいろの生物学的効能があり、例えば、「コQ」のサプリメントは心不全の症状を改善するとなっている(治療効果)。しかし、下に述べるように、治療としても重要な薬剤ではないし(本当に確かな効果があるのか疑問)、サプリメントとしてもAHAからも否定的判定をされている。何故、こういう反対のような話になるのかが面白いところです。小生の思うには、「大塚薬報」の記述の出典は、「Good sciencebetter nutritionUSA」という解説書で、栄養やサプリメントに足場を掛けた立場のものだからであろう。その引用文献はちゃんとした学術論文なのであるが、やはり、解説のストーリーを貫徹するために、引用する学術論文の選別に悪意のない偏向や安易さがあるのであろう。真面目と思われる書物でもいい加減なことを、さも確かなように書くのです。ところで、一般的な話として、ちゃんとした学術研究の成果であっても(研究室内の限られた条件でのデーター)、現物の人間について安易に敷延・適用することは「いい加減」ということでして、全部ではないにしても大概は間違いであるということを強調しておきたいと思います。


  今年120日付けの「メディカルトリビューン」という医薬業界新聞にも記事がでました。タイトルは「抗酸化サプリメントの安易な使用に警鐘」。これによると、「コQ」は脂溶性のビタミンE様物質(抗酸化作用物質)として期待してサプリメントなどに添加して商品化しているようです。「コQ」自体は厚労省が認可した特定保健用食品でも栄養機能食品でもなく、またその両者に必須の物質でもありません(余談ですが、この保健用食品や栄養機能食品というものも極めて怪しい存在と思われます。素人に過度の期待を与えるような、いい加減な認可制度を作った厚労省に疑問を持っている)。この記事は久留米大学第3内科の松岡助教授らの米国心臓学会(AHA)での発表内容を取材したものですが、検索した数種類の指標からすると「コQ」は無意味であるという内容です。もちろん、この発表で決着ありというものではありません。しかしながら、この記事にはAHAのガイドライン(2003年)も紹介されており、「医師は心血管疾患のリスクを軽減するために、閉経後ホルモン補充療法やガーリックと同様、ビタミンC、ビタミンE、「コQ」のサプリメントを勧めるべきではない(有効性が証明できず、有害な可能性もあるから)」と明確に書かれてあります。この松岡先生は、真面目な外来診療をする上でのライバルは「みのもんた」と述べていますが、ライバルという言葉は大いに遠慮した言葉であって、本当は別の言い方をしたいのだと私は感じました。「コQ」は重要な体内物質らしいですが、人体で生合成されるので(ビタミンではない)、サプリメントとして余分に摂取する必要もないし、補充することがかえって良くないという可能性も否定できない研究成果が得られているという記事でした。


  厚労省関連(国立健康・栄養研究所)のホームページに「健康食品」の安全性・有効性情報という欄があり、今年34日付けで、「イデベノンを含有していた「コQ」含有健康食品として販売されていた無承認無許可医薬品の発見について」という発表をしています。「コQ」の代わりにイデベノンという物質が入っていたので、摘発したそうです。こういう発表を読むと、何も知らない人はますます「コQ」が立派な物質だと思ってしまうのではないかと心配です。これは「成分表示と実際の成分とが不一致である」ことから「嘘の表示」という違法の嫌疑をかけられたのであって、どちらかの物質に優劣があるかどうかとは無関係です。

ところで、イデベノンという物質は昭和61年に武田製薬から脳卒中後遺症改善剤として販売承認された「アバン」という結構売上げの多かった薬の成分です。「アバン」と「カラン」とペアで売り出したので、語呂が良くて、多くの医師の記憶に今でもよく残っている薬です。ところが、平成10年の再審査の際に有効性に疑問がありとして承認が取り消された薬です。

       ところが実は、「コQ」自体は以前から心不全の治療薬として、日本の医療機関で使用承認されている薬(ユビデカレノン)で、現在でも立派な保険薬です。一番安い製剤の価格は1錠(10mg)6円40銭で、一番高いのは1錠23円20銭です。1日3回服用したとして19円〜70円くらいです。かなり安価な薬です。しかし、現在では効果の点からこのような薬を本気で処方している循環器科の医師は日本でもあまりいないのではないかと思います。「コQ」はそういう薬なのでもあります。


  前述のアバン錠のように、ちゃんとした医薬品でも、効果がはっきりしないのに売上げ多いものは以前だけでなく今でも結構あるのです。ということからも、医薬品でない(副作用や効能の厳しいチェックが入っていない)サプリメントの類は「のっけから商売のみ」と判断するのが賢明な頭脳の持ち主であるという証ではないでしょうか。もちろん、何事にも例外はあるでしょうが、サプリメントを使用しないための不利益こそ証明できないものです。使用すると、必ず財布が軽くなります。金持ちでなければ、これは不都合です。しかも、使用する前中後にわたって精神の質の低下を来たしていることを自覚すべきではないでしょうか。非常に不都合です。


  当院のナースで早速「コQ」を買っているのがいた。「当院に勤務しながらこういうのに手を出すなどもっての外」とまでは言わなかったが、小生は実にがっかりしてしまった。そのナースは結構、小生のDMMを読んでくれている方の者だから、かえってがっかりしました。「エエーっ、良いとは限っていないんですか。止めにします」と言っていた。「そうだよ。君はいつも金に困っているじゃあないか。それとも金持ちなのか」