(006)成人病予防における生活習慣改善の効果について(2004.11)

    以前、DMMの#22の原稿に「血圧改善に対する食塩制限の効果は皆さんが思い込まされている程のことではなく、むしろ肥満や運動不足の方の影響の方を真剣に考えることを勧める」と書きましたが、最近読んだ書物に「成る程」と思うのがありましたので、書き加えておきます。

    平成12年に出された「健康日本21企画検討委員会による報告書についての解説が最近届いた日本循環器学会の雑誌に載っていました。ここで述べられているのは、動脈硬化に関連のある「脳卒中」と「心筋梗塞」に絞られています。次のような内容でした。

    我が国の脳卒中死亡率は1965年では世界で一番高かった。その後、世界に類を見ない勢いでどんどん減少していって、25年後には70〜80%も減少した。その改善要因は高血圧の改善が最も大きいらしい。この頃までは国民の食塩摂取量が非常に多かった。日本が世界一の長寿国になったのは、脳卒中(特に、脳出血)の死亡率の大きな低下と感染症の低下・乳児死亡率の低下などに拠っている。脳卒中の減少は喫煙率の低下も多少効いているらしい。高コレステロールは以前は日本では目立っていなかった。何といっても高血圧の改善が大きいらしい。

    一方、心筋梗塞の三大危険因子は、高コレステロール・高血圧・喫煙である。我が国の食事から摂取するコレステロールはどんどん増加しており、日本人の血清コレステロール値は増加し続けている。日本の今までの心筋梗塞死亡率は先進諸国の中でもフランスなどの地中海諸国と並び最も低い位置を維持しており、増えかけた時期があったが途中から減少に転じている。しかし、現在の若者が今の食生活のままで高齢者になった時には、増加する懸念があるということである。

    以上が現状の要約でありますが、ここからが、脳卒中や心筋梗塞の危険因子である高血圧の改善に対する生活改善について「成る程」というところです。

    生活習慣の改善による収縮期血圧の低下は、@食塩半減(12gから6g)で3mmHgの低下、 ABMI(kg/u)の1の低下で2mmHgの低下、B純アルコールとして30mlの節酒で5mmHgの低下、Cにこにこペースの速歩毎日30分で510mmHgの低下、Dカリウム摂取の増加(量は書いていない)で3mmHgの低下ということです。これはあくまでも統計データーであって、個々の人が必ずこうなるというものではありません。「この毛生え薬の効果は皆さん全部がこの写真の方と同じになるということではありません」という怪しい?但し書きと同じです。このうち、AのBMIの1低下というのは、身長150cmなら2.25kg170cmなら2.89kgの減量に相当します。ここには、コレステロールそのものについての因子は入っていませんが、もちろん、複合的に絡んでいるはずです。

    これを見て、どういう印象を持つのかは、個人の考え方にもよるでしょうし、個人の現在の身体の状況によっても感じ方が異なると思います。私の印象は、やっぱり高血圧というと真っ先に減塩というのはどうかなと思います。1965年より以前の日本の生活状態の時と同じ力点で指導するのはどうかと思います。一方、体重を減らすこと(肥満の場合)や、特ににこにこペースの速歩というのはかなりの効果があると感じました。食塩摂取量の半減と言うのはかなりの努力が要るのに、その割りにたったの3mmHgなのか(食塩1g0.5mmHg)ということで、以前読んだ時の食塩1gで血圧1mmHgという話よりもよろしくない。ただ、食塩摂取過多の人が減塩すること自体はいろんな観点から良いことであると私は思っています。

    ところが興味深いことには、国民全体を考えるとどういうことになるかと言いますと、食塩摂取量が平均3g減ると血圧は平均1.5mmHg低下する、そうすると脳卒中発生は4.5%も減少するという計算が成り立つらしい。これは物凄く良い効果と言えましょう。もちろん、多くの人がウォーキングをするともっと大きい脳卒中減少効果があるということでしょう。ところで、ある患者さんの血圧が1.5mmHg低下してもその実際の利益はどれ程なのかと言うと、それは有益であるとは言い難いということである。これは私も直感でそう思って来ましたが、ちゃんとしたこの解説書にもそう書いてあります。だから、国民健康全体を考える立場からすると、国民血圧が平均1.5mmHg低下するなどということは素晴らしいことですが、個々の人にはその人生における意味合いは判らないということでしょう。これが統計的な解析の一筋縄でいかないところの一つで、自分自身に適用する場合には冷静に量的判断をしないといけないのではないかと思います。統計データーの信憑性自体についても、素人の私では上手く書けないですが、怪しい点を感じます。

    ところで、私は高血圧の方にどう対応しているのかと申しますと、やはり数年毎に提示されてくる高血圧治療ガイドラインに沿うように、データーを見ながら診療しているものです。やはり、高血圧状況を放置しておくことは、個々の患者さんの人生を不幸にしてしまう可能性が高くなってくると思われ、良くないと思っております。2mmHg3mmHgの程度の変動は神経質になることはないのですけど。生活では減量(肥満の人は)・ウオーキング・減塩など、適当に組み合わせてするのがバランスが好いのでしょう。もちろん、生活以外では降圧剤が非常に重要だということを強調しておかねばなりません。

    Aさんの状況ではどうで、Bさんの状況ではああだとういうことが一本道の人生や病気・健康の場合に、より重要になってくると思います。話しは唐突ですが、DMM#6に書きましたように、個々の状況を一切念頭に置かないような、しかも怪しいデーターがしばしば出てくる「何とかモンタ」の番組の内容をもし鵜呑みにすると、為になること1とすると(ゼロではない。時々、アアッ、そうか、というのがあります)、有害なこと10位ではないかと十数年前から感じています。あれはバラエティ番組で視聴率のみで真剣勝負しているということをお忘れなく。バラエティ番組としては面白いかも知れませんが、自分に直ぐに適用することは間違いの元です。