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Doctor Mからのメッセージ#048                      (2005.1)
           治療効果判定のための統計処理の怪しいところ?

 前号の丸山ワクチン(代替療法と言えます)も、製薬会社のゼリアとの共同研究で、確か2つの大規模の治験トライアルがあったという記憶があります。その一つはワクチンの効果が統計的に有意にあったということで、他の方は効果がなかったというのであったという記憶です(ちょっと頼りないのは申し訳ありません)。これは延命効果が多少あったかどうかでの判定です。しかし、統計処理しないとどっちか判らない程度のものとも言えます。こういう仕事を全部否定するものではありませんが、こんな程度のものなら、目の前の個々の患者さんに恩恵があるかないかについては多くを語れないし、想像力を働かせると、恩恵がない方が堅いように思ってしまいます。

 参考までに、最近の大規模調査のデーターです。日本人の摂取食塩を平均3g減少させると血圧が平均1.5mmHg低下するそうです。そうしますと、日本人全体の脳卒中発生は4.5%も減少するそうです。この減少は日本国民全体を考える政府からすると非常に重い意味合いがあります。ところが、個々の成人については血圧が1.5mmHg低下したらどういう恩恵があるかというと、それについては何も言えないそうであります。これは減塩をしなくて良いということに力点があるのではなく、統計処理データーというのは、個々の将来の予想には言う程の力がない場合があるということです。特に、ギリギリで統計上の有意差が出たというような場合はそういうことでしょう。

 最近のいろんな治療法の大規模治験成績をまとめる場合には必ず統計専門家が統括するようになっています。それ程、専門的に間違いないとされる統計処理をしないと有意差があるかないか直ぐには判らない場合が多いのです。しかも、たとえ有意差が出た成績でも、もう一度したら別の結果になるという可能性はないとは言えません。統計学者のお墨付きを貰ったことは確かですが、真理を述べているとは限らないのです。

 少し自慢になりますが、小生が大学院に進んで最初に発表した論文は幸運にも「ネイチャー」紙に掲載されました。これは先見性や独自性がないと掲載されない、自然科学研究者には憧れの雑誌です。この論文にネズミを用いた免疫学関係の実験のデーターを三つ載せたのですが、どのデーターも統計的処理を省いています。しかも、恥ずかしいことに各データーの各点に用いたネズミの数が3~5匹という少な過ぎる数でした。通常は少なくとも5匹以上ないと信用されにくのです。実を言うと、面白いアイデアが出たので、指導教官とともに予備実験的に実験してみたら、当時の議論に一つの結論を出したようなデーターが出たので、他の研究者に先を越されないうちに「直ぐ出そう」となったのです。通常はデーター間の統計的有意差を示す計算結果も付け加えるのですが、「そんな計算するまでもなく、見たら差が判る」ということで統計処理をしなかったのです(その処理は至って簡単なので、しても良かったのですが)。そういうのでも雑誌のレフェリーはほぼ一発でOKとして呉れました。直感的に判る程の差があるというのが一番確かであった例です。

 
逆に、論文のデーターの各点を出すのにそれぞれ数十匹づつものネズミを使って、統計処理をしてやっと有意差を出したという場合があります。論文といては確かにきっちりしていますが、直裁的に「成る程その通りだ」という感覚は出て来にくいようにも思われます。物理学のデーターなら、こういうのでも確かな場合が少なくないのでしょうが、動物や細胞の反応性で判定するようなデーターは統計処理がいくら完璧でも、読んでみて「フウーン」「そうかなあ」と思うだけという場合がままあります。

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