直線上に配置

Doctor Mからのメッセージ#037                      (2004.2)
               「高齢者の内服薬が多過ぎる」からの脱線


 しばしば、テレビの特集番組などで、「老人病院に入院中の患者さんの多過ぎる薬をうんと減らしたら、本人の状態も良くなったし、医療費も減った」というのを私も見たことがあります。確かに、病名や症状を考えて処方をしてきたら、気が付いたらかなりの量だなあと、驚くというか何とかならないかと思うというか、そういうことはあります。しかも、私の場合でも良かれと思って処方した薬を途中で止めたらその方が良かったという場合は正直言って物凄く稀ではありません。薬の種類によってそういうことが稀な場合と、比較的起こり易い場合があることが判ってきました。

 先程の病院などは、不必要だった薬を単に減らしたから状態が良くなったこともあるかも知れませんが、それよりも、マンパワーなどによる医療の質を向上させようとした病院の努力が患者さんの状態を良くしたことにあるのでしょう。薬を減らすのが絶対に良いのは本当か? と私は言いたいのです。最近の医療費の点数でいきますと、余り薬を出さない方が医療機関にメリットがあるような場合があります(「マルメ」という定額制の場合)。そうすると、必要な薬まで止めてしまう傾向にあります。私は他の病院にかかっている患者さんにおいて、薬が少な過ぎて不都合になっているに違いないと思うケースをみたことがあります。今の制度では必要な薬を可能な限り減らそうとする訳です。可能な限りならベストかも知れませんが、それ以上なら悪いことになります。テレビで報道するのは物事の片方しか言わないのです。

 「医療機関は経済ばかり優先にしておかしいではないか?」との疑問がでるでしょう。医師としては良いと思う医療と経済との間で選択を迫られているのが現状です。どちらかを無視することは出来ません。個々の医師としては、まだ余力があるからこの場合は敢えて経済を無視してということは結構多いのです。ただ、日本全体の統計になってきますと、点数重点の方に動くのです。これはどの世界でも必ずそうなるのです。これを期待して日本の官僚は政策を決めているのです。それを、「政策誘導」と言って、官僚の伝統手法です。「こっちの水が甘いぞ(点数が高いぞ)」とやるのです。こういう手法もあっていいと思いますが、そればっかりというのは疑問を感じます。

 脱線しますが、医薬分業政策(調剤薬局)について。政府が医薬分業が真に望ましい方であると思えば、「何年か先にそうしますから、医療機関もそのつもりで準備して下さい」として、法律でそうしてもらいたい。ところが実際に官僚がしていることは、医療機関には、院外処方箋を出す方が点数が高くなるという政策誘導をかけているのです。制度として決めていないのです。調剤薬局には、最初は高い調剤点数で政策誘導をかけてそういう制度を立ち上げましたが、その後、どんどん調剤点数を下げていまして、つまり二階に上げておいて梯子をはずしているのです。調剤薬局も倍くらい大変になっています。最初が良過ぎたとも言えますけど。介護点数も同じ事をしています。私自身は院外処方にした方が責任が軽くなって、また、職員の数も減らせるし、したいなあという点もありますが、困る患者さんも少なくないはずです。何度も考えています。

 医薬分業も介護保険も、官僚が、実際はこうあるべきという哲学から出発したのではなく、医療費公的出費の削減目的から出発したのは明らかですから、後で点数が削減されることは医療機関も調剤機関も介護機関も先読みをしておかなければならないのです。それが判っていても、末端の人間にはどう仕様もないことが多くて困りますのです。

←Back                                                                 Next→
直線上に配置